「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」報告

若者ヘは工学への関心を高める早期教育を。大学は企業の人材ニーズ・技術ニーズにもっと関心を

意見交換<第2回「理工系人材育成に関する産官学円卓会議」より>

 

◆工学の中では機械系は人気だが、工学自体への志望を高める仕掛けを

〇藤嶋昭先生(東京理科大学学長、日本私立大学団体連合会):

今回のみなさんのお話を伺い、重要な科目はやはり機械工学、電気工学であり、これらをじっくり教育しなければいけないと改めて認識しました。私たち理科大では、受験生に一番人気なのは、機械系で入試倍率も高く、また、就職率も一番よいのです。それは産業界からの要求があってのことで、きちんとした教育を受けた機械系、電気系の人材を産業界が求めているのがよくわかりました。もう一つ大事なのは、それらの基礎である、数学・物理の基礎を大学ではもっときちんと教育しなくてはいけないということ。これは、常に思っていることです。

 

〇大西隆先生(豊橋技術科学大学学長、国立大学協会):

われわれの大学は工学部だけの小さな大学ですが、やはり機械系が一番安定しています。工学部の中で、時代により人気などに変動があります。例えば、われわれが学生になる少し前は、船舶も人気がありましたが、その後不振になったりしました。最近は、電気系が全国的に低調という話も聞きますが、おそらく機械だけは低調になったことがなく、非常に安定した人気がある分野だという印象があります。

 

委員の方々のお話を伺っていて、2つ思ったことをお話しします。1つは、理工系を目指す人が少ないと言いますが、「理工系人材」と言っても、「理」と「工」では状況が違うと思っています。普通科高校では「工」はなく、「理」を学んでいます。ですから、普通科高校から理系を目指すときに、まず考えるのは「理」ではないか。「理」で自信がないと「工」に行く。優先順位が、「理」と「工」で違うのではないかと思われるのです。「医」の人気なども考えると、もう少し職業と結びついた意識を、若い世代に持ってもらう仕組みを発展させる必要があると思います。われわれ、豊橋技術科学大学と長岡技術科学大学は、高専からの学生を受け入れています。高専生は、中学生のときに工学に目覚めて、ものづくりを志して高専に行くわけです。ただ、それは同世代人口の1%程度です。全体としては将来の仕事に結びつくモチベーションが生まれにくい仕組みにあると思います。例えば、スーパーサイエンスハイスクールに、工学部の先生たちが出向き、ものづくりへの刺激を与えるなど、既にいろいろな取り組みがありますが、さらに発展させる必要があると思います。

 

もう1点は、大学や大学院と企業が、うまく結びついていないように思います。12兆円の企業の研究開発費の中から、大学への投資は、諸外国に比べて少ないというデータがあります。また、25歳以上で大学に進学する人は、OECDの平均に比べて日本は低く、わずか2%しかいません。就職してから大学で学び直す人は非常に少ないのです。ですから、大学で学び直す社会人がもっと出てきてほしい。同時に、企業と大学の一体的な研究が大学の中でも行われ、場合によっては、大学生でありながら企業にすでに就職しているケースが生まれてきてもいい。そこでは、企業で経験を積んだ人が教員をするということがあってもいい。そういう仕組みは、以前からも指摘はされていますが、まだまだ弱いという実感があります。

 

◆海外の現場から見えてきた日本の将来の姿 

〇秋山咲恵氏(株式会社サキコーポレーション代表取締役):

私からは、一独立企業のトップとしての立場で、現場の問題意識をお話させていただきますが、それにあたって、まず現在の業務を少しご説明させていただきます。

 

当社はマシンビジョンを使った電子モジュールの自動検査ロボットのメーカーで、20年前に私が自分で創業いたしました。当社の検査装置は、日本、アジアだけではなくて、北南米、ヨーロッパ、北アフリカも含めて、これまで累積で8000台以上の出荷実績を重ねることができました。その間、世界のいろんな製造現場も見てきましたし、そこで働いている方々、あるいはお客さまとのお付き合いもあります。

 

私どもの仕事は機械系ですから、メカトロ系のエンジニアやIT系のエンジニアを必要としています。ベンチャー企業ですので事業が成長するのに合わせてエンジニアを採用したいのですが、私の経験では残念ながら、日本では特にこの機械系・メカトロ系のエンジニアの中途転職市場に出てくる人が極めて少なく、エンジニアの中途採用に大変苦労してきました。ですから、かなり以前より、国内外で外国人エンジニアを採用しております。このような経験の中から、エピソード的なお話ですが、5点ほど紹介させていただきます。

 

私が初めて中国に装置をお納めしたのが2000年で、中国は「世界の工場」と言われていた頃でした。中国のお客さまの現場に伺うと、大学を出たてのエンジニアが、オペレーターの人たちを統括する現場のエンジニアとして、日本でいうと生産技術や製造技術の、現場のリーダーのような仕事をされていたのですが、とても流ちょうな英語で、しかもとてもリーズナブルなビジネス会話ができるのに非常に驚きました。話を聞いてみると、中国の大学卒ですが、専門科目の一定部分を英語で授業を受けてきた。それから、大学の専門分野で勉強している間に、民間との共同プロジェクトのようなものをいくつか経験しているので、ある程度、ビジネス感覚も身につけたということに、大変感銘を受けました。中国では、日本の10倍もの人が毎年高校を卒業するなど、母数が圧倒的に違います。10年後にどうなっているのだろうと、大変恐怖を感じたわけです。

 

2点目は、欧米系の会社では、特に技術系の仕事では、トップには、Ph.D.ホルダーの方が多いですし、R&Dや技術部門のトップの方も、当然のようにPh.D.ホルダーが多いということです。それはとりもなおさず、部下の人たちがPh.D.ホルダーが非常に多いので、当然トップはそうでなければ務まらない。あるいはそれに匹敵するぐらい優秀でないと務まらないということもあるからです。

 

3点目は、技術系のトップだけではなく、ビジネスの責任者の方々とお話しすると、特に欧米系の方は、ダブルマスターだと言います。例えば、理工系やアート系のマスターコースを修了した方が、MBAを持っていたりして、そのことでビジネスのコアなポジションを担っている方が多いのです。

 

それから4点目。これは特にアジアで強く感じるのですが、女性のエンジニアで、しかもマネージャーとして仕事をされている方に、非常によくお目にかかる機会があります。日本ではそういうケースは少ないので、この違いは何だろうと思います。

 

5点目。以前、ドイツの(欧州最大の応用研究機関である)フラウンホーファー研究所と取引がありましたが、そこでは、技術については、その技術者である大学の先生方とお話をして、成果物を購入しようとすると法務や知財などに通じたスタッフが対応するというように、きちっと役割分担がされていました。そういう機能がある組織として、われわれ企業とお付き合いができる態勢になっていて、研究所ではあるものの、民間企業に近い感覚がしました。

 

これらのエピソードは、これからの日本人も、少なくともビジネスの世界では、必ず見る世界になってくると思います。こうしたところに目標を置いていく必要があるのではないかと思います。

 

そのためにも、早い段階から、エンジニアの仕事など、理工系に進んだ人たちが将来どのような仕事ができるのか、それがどんなに素晴らしい成果を社会に還元しているかといったことを知る機会が、非常に大事だと思います。若い方が将来、理工系分野に進んで、自分の将来像を描こうと思っても、見たことも聞いたこともないものには憧れることも目標や夢を持つこともできないからです。ですから、社会人やそのOBの方が、教育現場にもっとコミットメントするということを増やしてはどうかと思います。

 

〇藤嶋先生(東京理科大):

理科教育の重要性は私たちも認識しています。特に小学校の理科教育は非常に大事だと思っております。理科があまり得意ではない小学校教諭がいるという報告がありました。私は地元の教育委員を10年間務めておりますが、小学校を視察して一番の問題点だと思ったのは、理科室はどこにもありますが、ほとんど使われていないということです。理科室もそこにある顕微鏡も使われていない。国としては、小学校の理科教育にさらに力を入れていただいて、補助員を付けるなど、理科室をもっと多く使って教育を行うようにするのが、緊急の課題であり、私の願いです。

 

◆修士は狭い専門に長けているが、基礎である4力学を忘れている

〇上野淳先生(首都大学東京学長、公立大学協会):

企業が、入社後、機械4力学や電磁気学などを再教育するという話は、私にとっては大変衝撃的な話でした。まさかうちの大学はこんなことはないだろうと確かめてみます。大学としても深く受け止めなければいけません。もしかしたら、4力学や電磁気学は学部2年、3年で教え、卒論や大学院ではソリューションエンジニアリング、あるいはアプライドエンジニアリングという、応用的なことばかりの教育や研究に目が向きすぎているのかもしれないという反省もしました。

 

〇須藤亮氏(株式会社東芝常任顧問、産業競争力懇談会):

私は研究所の所長を務めておりました。そこで面接などで出会ったマスターは、自分のやってきた研究の分野についてはものすごく優秀です。学会発表も何度もしていますし、論文も書いてきています。その時点で世界で名前の通っている人もいました。では、4力全部を知っているかというと、自分のテーマが熱力学に関係するなら、もちろん詳しいのですが、でも材力は知らない。たぶん学部の2年や3年のときにやったので、もう忘れてしまったのだと思うのです。どうしても今の大学教育では、専門を絞るので、その分野はすごく詳しくて優秀なのですが、あんまり裾野は広くないかなという気がしています。

 

〇内山田竹志氏(トヨタ自動車株式会社会長、日本経済団体連合会):

自社の経験では、高度なシミュレーションなどの新しいテーマについての知識は多いものの、いわゆる4力学と言われている材料力学、機械力学、熱力学、流体力学、加えて振動工学といった基礎的な知識が少ないのです。新しいテーマは何とかこなせているのですが、逆に、非常にベーシックな質問をすると、説明ができなかったりする。その意味では、理工系学部の4年までで終えているべき科目の知識量が比較的少ないのではないか、という印象を持っています。

 

 

〇上野先生(首都大学東京):

修士1年目は、まだ講義と演習が半々ぐらいで、相当、濃密な教育をしていますが、修士2年目は、修士論文のテーマについての、大学人から言えば深い研究を行います。しかしながら、企業の方から見れば非常に狭い範囲の研究ということになるかもしれません。そういう意味では、大学院教育は、ユニバーサルな教育にはなってないという側面があるかもしれません。

 

 

〇大西先生(豊橋技術科学大):

日本の大学では、卒業してそのまま同じ大学の修士課程に行くことが多いですね。豊橋技術科学大学では、約9割が修士に進学します。東大で教員をしていたときは、東大の工学部も8割ぐらいが進学していました。もし、学部で一通りその分野の講義を受けて、修士でもう一回講義を受けると、なんとなく二重になるわけですね。他大学から来る修士があまりいないので、それなら、教えることは学部で教えて、修士では研究しようと。研究するということは、特定のテーマで深く掘り下げていくので、ある分野についてはものすごく詳しくなりますが、その分野全体の知識、学科全体の知識は、だいぶ前に勉強したのでだんだん忘れていくわけです。だから、例えば公務員試験を専門職で受けても、学部生の合格率と修士の合格率は変わらない、むしろ学部の方が入りやすいかもしれないですね。広く浅くその分野については知っていないと、試験は受からないので。修士卒の人は、忘れていることもあるので、企業での再教育が必要となるのでしょう。

 

 

〇藤嶋先生(東京理科大):

私たちは、最近『機械工学』というオリジナルの教科書を丸善から出版しました。4力学を50ページずつでまとめて、約200ページになります。機械工学科の学生は当然1年生2年生のときは必ずそのオリジナルの教科書を使います。そして大学院に行っても、就職して企業に行っても、必ず横に置き、常に見よう。それ1冊あればいい。そんな機械工学のオリジナルの教科書を作ってみたのです。やはり基礎力を持ち、一生自信のある専門を持っている研究者、技術者にならなければいけないと思っています。

 

また、東京理科大では、約7割は修士課程に進学しますので、今はもう学部・大学院の6年制一貫教育と捉えています。基礎教育を学部の3年間、それから、4年での卒論から修士課程までの3年間、3+3の教育が一番良いのではないかと考え、そのような教育を進めようと思っています。

 

◆「絶滅危惧」分野に対して企業から声を上げる

〇内山田氏(トヨタ自動車):

経産省のデータに、専門科目について、産業界のニーズと研究者数の分布が合ってないと指摘がありました。基本的には、産業界は「今の仕事」と「次の仕事」に必要な人材という観点でニーズを示しますが、大学の研究者はどちらかと言うと研究者個人の興味や関心を軸に研究すると思うのです。ですから、研究者の方には、もっともっと産業界が現在や次のステップで関心を持っている分野に、まず関心を持ってもらいたいと思います。

 

そのためには、先ほどのお話しに出た、フラウンホーファーのような研究機関を仲立ちにした産学連携を行うのが現実的な方法だと思います。日本でもこれを念頭に、研究開発法人のあり方を変え、中でも産業技術総合研究所と理化学研究所を強化し、産学の橋渡し機能を持たせようとしているのですが、テーマも資金もほとんど国から流れているのが現状です。これらの研究機関に、もっと民間から資金が行くようにしたいと思います。ただ、先ほどのマッチング分析などから政策的に誘導しますと、産業界の「現在」ばかりに追従して、結果、次の時代に遅れていくということがあります。大学は一歩先のことをやるわけですから、産学連携においても、「次」の研究テーマに産学から研究者が集まるためのことを、国として進める必要があると思います。

 

また、「絶滅危惧学科」が話題に出ていますが、その1つの典型例が実は、自動車です。自動車は、産業では強い国際競争力を持って挑んでいるのですが、大学の方ではもう終わった学問という認識で、自動車工学を設けている大学はほとんどありません。わずかにエンジンの燃焼工学を開設しているところはありますが、これも今の先生が退官されたらもうやる人はなく、非常に危ない状態です。ドイツでは、この産学連携が、大変うまくいっています。ですから、企業としても、ここに関心があることを示すためにも、日本の自動車メーカーがエンジンの研究組合を作りました。日本の自動車業界で、個々の企業の壁を越えた研究組合を作るのは、非常に異例ですが、それぐらい危機感を企業は持っているわけです。そこに大学などから研究者に参加していただくことを始めていますが、もっともっと産学連携を進めていく必要があります。今、若い人が入ってこないのは、特に工学系です。ですから、高校生にも、「将来、社会に出るとこのような非常に大きな役割があるのだ」ということをしっかり見せていく必要があると思います。

 

(2015年)7月に経団連が開催した「夏季フォーラム」というイベントで、イノベーションに向けた企業間連携について議論されました。日本では、個社で上流から下流まで担うため、結果閉じた組織となっています。その一部だけで産学連携を行うので、全体としてどのくらい大きなニーズがあるかが、大学の研究者の方ではわからないということになるのです。先ほどのエンジンの共同研究組合のような企業間連携をもっとやらないと、大学側に鋳造や加工などのニーズや重要性が伝わりません。産業界側にはそのような課題があると思います。

 

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