「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」報告

有為な博士人材の育成・活用に向けて


藤嶋昭先生 東京理科大学 学長(日本私立大学団体連合会)

(第3回「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」より)

博士の現状と課題

博士課程については、今までの第1回、第2回の円卓会議でいろいろな方からお話がありました。優秀な学生は修士修了後に就職してしまい、博士になかなか進学しないということ。あるいは、博士の学生はアカデミア志向が強い。高度な専門性はあるが専門以外になると応用が利かない。企業が求める人材が育成されていないのではないか。博士課程修了者はまだマイノリティーである。こういったことが指摘されています。


修士課程を修了した人は、平成26年度の学校基本調査を見てみますと、そのまま就職する人が70%以上、博士に進学する人が約10%で、これは全分野にわたってのことであります。博士課程を出ると、正規の就職が半分くらい。博士を出ても、就職も進学もしない、不定の方が20%いるということが実情だということがわかります。


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専攻分野別にまとめたものが、下図です。一番多い「保健」には、医学博士も含まれていると思います。次いで多いのが、工学で55%以上の人が正規に就職していることになります。

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また、博士課程の入学年齢は、正規の24歳、25歳で入ってくる方が多いのは当然ですが、30歳から34歳までの方が多いというデータもあります。つまり、学士あるいは修士を出て企業に入り、しばらくして企業派遣などで博士課程に入ってくる方がかなりいるということです。

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博士人材が重視されるために大学がなすべきことは何かを下図にまとめました。博士の学位の質保証をすべきで、そのために厳格な審査、学位授与基準の検証をしなくてはいけません。博士課程の進学者を増加させるためには、やはり奨学金をもっと充実させる、あるいは授業料免除等を行うということが必要ではないかと思われます。専門的知識にプラスして教養などを身につけさせる教育が必要です。実践的な研究システムに対して、カリキュラムも十分に考慮しなくてはいけません。そして、社会人の博士課程への積極的な受け入れを図るべきであり、企業との産学連携・共同研究の推進、あるいは海外との連携を積極的に行っていくことが重要だということです。

企業の方にお願いしたいのは、博士号取得者の処遇・待遇を改善していただきたいということ。学歴に応じた採用枠を決めていただいて、博士修了者を是非採用してほしいということ。そして、働きながら週1日か2日等、研究室に来て研究する社会人課程博士をもっと増やしていただきたい。そのためにも、企業と大学が共同研究等を行っていくことが必要だと思います。

 

博士育成・活用のスパイラルの構築が大事ではないかと考えます。産学連携をより積極的に行い、企業の方には博士修了者を積極的に採用していただく、待遇を向上させていただき、優秀な学生が博士に喜んで進学してくれるようにする。それに応えて、大学でも教育改善を行い、付加価値を持つ博士人材の輩出をしっかりしていく。これらがうまく回れば、アメリカのように、博士を取った人が企業で大活躍をするようになっていくのではないかと考えるのです。

 

東京理科大学での取り組み

私たち東京理科大学で具体的に何を行っているか説明いたします。大学における専門外教育を充実させていきたいと考えています。それから、学部を含めて、全学共通講座を推進していきます。具体的には、教養教育を重視する。第一線で活躍している研究者等に講義をしていただく。あるいは教養という観点からも、歴史や文化を学ぶ機会を作る。当然ながら英語教育も非常に重要です。また倫理学、環境・安全教育、知財教育についても全学的に1年生から取り入れる。こうしたことを、今、準備しているところです。

 

博士課程に特化した支援も行いつつあります。来年4月からの博士課程進学者に対しては、授業料相当の給付型の奨学金を用意しています。それから、TA(ティーチングアシスタント)・RA(リサーチアシスタント)制度をさらに拡充し、博士課程の3割くらいの学生をリサーチアシスタント等に雇い、生活費相当額を給付していきたい。海外派遣制度、共同研究、あるいは、研究室の中で既に行っている修士の学生の指導をさらに充実させる、などによって力をつけてほしいと考えています。

 

博士の学位の質保証をきちんとしなければいけません。そのため、博士論文の審査基準を検証し、分野ごとに統一化しました。また、社会人課程博士を増加させたいと考えています。

東京理科大学では、基礎学力を育成するために、オリジナル教科書の出版を始めました。第一号は「機械工学」で、流体力学、材料力学等の4力学が全部入り、機械工学で学ぶべきことを一冊にまとめました。学部の1年生・2年生が中心ですが、卒業研究や大学院においても、あるいは卒業してからも手元に置いて使える内容になっていると思っています。さらに基礎化学、電気・電子工学など、3月末までに4~5冊を出版し、来年4月からの講義で使っていこうとしています。最終的には全分野、30冊程度の刊行を予定しています。

最後に、私立大学から産業界へお願いがあります。理工系学生の場合、各研究室に配属され、実験を行いながら卒業研究や修士論文を作成していくわけですが、近年は就職活動の期間が非常に長期化しており、研究や実験を行える時間が非常に制限されてきているということがあります。特に修士・博士はじめ、多数の学生が在籍している理工系の私学においては非常に深刻な問題になっています。是非、就職期間のさらなる短縮化を考慮していただきたいと強く希望しております。

皆さまもご存じのアリストテレスが、「国家の運命は青年の教育にかかっている」という言葉を残しました。青年の教育がいかに重要であるかということは当然のことであります。その中でも、特に博士人材をさらに育成していきたいと考えています。

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