「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」報告

首都大学東京における理工系人材育成の現状


上野 淳先生 首都大学東京学長(公立大学協会)

(第2回「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」より)

上野淳先生
上野淳先生

首都大学東京は、東京都が設置する、全構成員が約1万人、理工学系が46%、人文社会科学系が41%、健康・医療系が13%という、基本的な学問分野を備えた、中規模の総合大学です。人文社会科学系にも大変豊富な教員をそろえていますので、基礎教養課程の教育、リベラル・アーツ教育がしっかりできていると自負しています。

 

昨今、文部科学省が国立大学に対して、人文社会科学系の学部・大学院の改組や廃止について発言されています。確かに、社会的要請の高い分野への転換は大事ではありますが、私どもの大学としては人文社会科学系学問も大事にしたいと思っております。幅広い教養、批判的精神、文化・歴史を理解する力というのを、あまねく理工系の学生にもしっかり定着させることも、私は大事なことだと思っています。


一方で、人文社会科学系学部についても、養成する人材像のよりいっそうの明確化、身につける能力の可視化をしっかりと考え、不断に組織改革をしていくことが必要なことだと考えております。

本学の大学院については、理系では、博士前期課程への進学率は70%~80%。他大学からの応募も多くあり、健全な入試倍率を維持しています。就職率も高いと認識しています。しかし、博士後期課程への進学率は低下傾向であり、残念ながら、博士後期課程では、定員充足に苦労しています。

博士課程への修士課程からの進学率は、本学に限らず、かなり長期的に低下傾向にあります。これは言うまでもありませんが、大学の基本的な研究力低下に直接的に結びつきます。私ども、理工系の教員としては、このことに非常に強い危機感を持っています。一方、公務員・一般企業でPh.Dを重んじる風潮の無さはなぜでしょうか。これには、博士課程修了者は、専門知識研究力、論理的思考力はあるけれども、熱意、意欲、行動力、実行力、チームワーク力がないのではないかという指摘があります。

正直に言いますと、非常に優れた才能を持った人は、なかなか博士に進学してくれません。修士でかなり高い就職率があるということもありますし、キャリアパスへの不安があるのでしょう。

文科省が「リーディング大学院」事業を展開していますが、私どもも、研究室の枠を超えた武者修行をさせるプログラム、例えば物質化学、応用生命、エネルギー、情報科学のような分野で、場合によっては文系も含める、分野横断プログラムを開始しようとしております。

さて、理工系人材育成には、量的拡充と質的向上という両側面があると思いますが、私ども理工系学部・大学院教育に企業が求めているのは、理工系学部・大学院の質的充実だと思われます。それは、イノベーティブ人材、産学連携の強化、研究室や専攻、大学の枠を超えた人材・教育交流、修士人材の入試後の再教育などだと思われます。

また、大学が社会の要請に応えるのは当然だと思っておりますので、企業が大学院教育に求めている要件を具体的に提示していただけば、それに応じていきたいと考えています。ただし、大学は単に職業訓練機関でよいのかということについても、深い自省を持ちながら、常に社会の情勢に対応していきたいと思います。本学の理工系教育は、能動的な学びの保証、課題発見・探求型教育研究など、かなりしっかりした教育を行っているつもりではありますが、産業界の要請がどういうところにあるかということについては、今回の円卓会議で議論が深まればと期待しております。

女性研究者については、首都大学東京では、ダイバーシティー推進室というものを設け、女性限定の教員公募を実施したり、女子中高生向けに大学説明会や理系女子の進路等の紹介などの広報活動を行っていたりします。出産、育児、介護と研究を両立させるための女性研究者の研究支援制度、女子大学院生への研究奨励賞、一時保育施設の設置などにも取り組んでいるところです。

文科省は、国立大学に対して、「国立大学経営力戦略」として、3つの重点支援の枠組みを設け、その評価に基づくメリハリある予算配分を実施しようとしています。
<参考>詳細:文部科学省資料
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/062/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2015/06/04/1358532_5_1.pdf

公立大学については、その要請ではありませんが、本学では、地域のニーズに応える研究・教育、分野ごとに優れた研究拠点、世界と戦える卓越した教育・研究の3つにつきまして、下図のように推進していこうとしています。

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